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アルバン・ベルク(alban berg)「piano sonata op.1」 分析など

 回は、アルバン・ベルクalban berg)の「piano sonate op.1」を紹介したいと思います。この曲は、私が現代音楽にハマるきっかけとなった曲でもあり、ほんとに何回聴いたかわからないぐらいたくさん聴いた大好きな曲です。現代音楽とは言いましたが、この曲は調性が残っていて、構成もしっかりしているので、現代音楽の中では割ととっつきやすいかと思います。

 このように作品紹介のコーナーでは、私が日々音楽を聴いていく中で良いと思ったものも、悪いと思ったものも、どちらも紹介します。私の感想、曲の分析、曲のできた背景、作曲者などについてまとめています。

 ぜひ、以下の譜面動画を見ながら私の分析にも目を通してみてください。

アルバン・ベルクについて

 

 アルバン・ベルクは現代音楽黎明期の代表的な作曲家で、シェーンベルクに師事した新ウィーン楽派の一人です。シェーンベルクの12音技法などをとり入れるなど、当時としてはとても前衛的な側面もあった一方、後期ロマン派の影響を色濃く受けており、この曲のようにかなり調性を感じさせる作品も多く残しています。

曲の構成

 

 この曲はソナタであり、ソナタ形式は伝統的に、序奏→提示部→展開部→再現部→終奏という部分に分かれていますが、この曲は序奏がなく残りの4つだけとなっています。さらに分解すると、提示部で第一~第三主題が示され、展開部の前半では提示部で用いられた動機を変奏し組み合わせたようなフレーズ、後半では第二主題の変奏となっています。その後、再現部ではまた第一主題から始まりますが、すぐに再現部の前半のような盛り上がり方をみせます。次に第二主題が調を変えて現れますが、こちらもまた再現部のようなフレーズで盛り上がります。そして第三主題が一瞬現れすぐ終奏が始まります。小節数でいうと、以下のようになります。 

・提示部 1~55    第一主題 1~28

             第二主題 29~ 48

             第三主題 49~55

・展開部 56~110  前半57~99

             第二主題の変奏100~109

・再現部 111~168 第一主題110~136

             第二主題137~166

             第三主題167~168

・終奏169~179

この曲に用いられている手法

 この曲は、1曲を通していくつかの動機が変奏されながら用いられています。

以下は、私が動機ごとに譜面を色分けしたものです。

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長くなってしまうので第一主題のみでとどめますが、第一主題は7つの動機の変奏が組み合わされてできていることがわかります。僕が分析した感じでは、1曲を通して13~15個の動機が使われていました。そして、動機同士で音程的な共通点が多くみられます。

 このような手法を「発展的変奏」といいます。この手法はシェーンベルクが提唱した手法で、主題や動機を変奏し組み合わせることで曲を作っていくなかで、新動機を生み出し、さらにそれを変奏し組み合わせることで曲を作っていく、ということをくりかえす手法です。ウェーベルン、レーガー、ヒンデミットなどがこの手法を多く用いました。

和声的な特徴

この曲には、いくつか特徴的な和声の使われ方がみられるので、紹介します。

・半音階進行

 ジャズなどでもよくあるのですが、ドミナント和音(属和音)を半音階で並べる(主に下降)という進行が多用されています。

f:id:Nakagawa-music:20191008092523p:plain例えば冒頭のここです。赤で囲った和音はC7、緑はB7b13、水色はA#7b11というように半音階で下降する進行になっています。ちなみに、黄色はF#7、茶色はBmと解釈できます。この進行は、B7をF7の代理和音と考えればドミナントモーションが連続している、と考えることができます。ほかの半音階進行も同様にドミナントモーションと解釈できます。

全音音階的な進行

 

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以上の譜面は4~10小節目です。赤で囲った部分は長三度音程の和音が、全音音階的に下降しています。そして、その後に半音階での下降に接続しています。ここは、8小節目のバスがEであること、7小節目の一番上でなっている音がB7の7thであるAであることなどからB7的な響きであると考えられます。ジャズにおいてはこのようにドミナントにおいて全音音階(ホールトーンスケール)を使うことがよくあります。

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これは68~69小節目です。赤で囲った部分で全音音階が使われています。

・増三和音(aug)やsus4の使用

 この曲では増三和音や四の和音が多く使用されており、それらはドミナントの響きを強めるために使われている考えられます。

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これは、先ほども出した場所で8~10小節目です。色で囲ってある場所はすべて増三和音になっています。また、8小節目の右手のメロディーも増三和音のアルペジオになっています。8小節目はバスがE、9小節目はバスがAなので大枠では8から9小節目へのドミナントモーションと考えていいでしょう。そう考えると赤の和音や、水色の和音はE7のテンションとして解釈できます。また、左の三つの和音はA7のテンションと考えられます。

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はい、そしてsus4です。これは、24~27小節目です。

25小節目の冒頭もsus4ですが、今回は赤で囲った部分を分析します。赤で囲った部分はすべてsus4ですが、特に注目してほしいのは26小節目の4つの和音で、半音階で下降しているのがわかります。27小節目の最初の和音はBbのトライアドなので、最後26小節目の最後の和音はF7の変形であると推測されます。そう考えると、26小節目は左から順にG#7、G7、F#7、F7の変形とすると一応ドミナントモーションとして解釈できます。ここは、何とでも解釈できそうですが、ピアノで元の和音を弾いてみると響きとして成り立っていたのでこの解釈で良いと思います。

このように増三和音やsus4が随所で緊張感を出す働きをしています。

・まとめ

 

この曲で特に私が注目したいのは、やはり独特の和音の使い方です。増三和音やsus4、特に四の和音の使い方はジャズとも共通する部分があると思います。ジャズのサックス奏者であるジョン・コルトレーンのモードジャズにおけるsus4の使い方はこの曲と非常に似たものがあります。一般的な音楽理論では、sus4は同じルートのメジャー和音への経過音ととらえられますが、この曲もジョン・コルトレーンもその使い方ではなく、緊張感をだす目的で使用しています。

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