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作品紹介 ヘンリー・グレツキ「String Quartet No. 1 (Already It Is Dusk)Op. 62」の感想、分析

 今回は、ヘンリー・グレツキ(Henryk Górecki)の弦楽四重奏String Quartet No. 1 ("Already It Is Dusk"), Op. 62」を紹介します。私が、この曲を最初に聴いたのはモルゴーアカルテットのコンサートでその時は思わず声が出るほどの快感でした。なんといってもこの曲の魅力は、何度も繰り返される冒頭で登場するメロディーです。そしてその静けさとそれ以外の激しい部分との対比が大きな効果を生んでいます。     

 作品紹介のコーナーでは、私が日々音楽を聴いていく中で良いと思ったものも、悪いと思ったものも、どちらも紹介します。私の感想、曲の分析、曲のできた背景、作曲者などについてまとめています。

 
Henryk Górecki - String Quartet No. 1 ("Already It Is Dusk"), Op. 62 (1988) [Score-Video] 

・曲の構成

 

この曲は5つのセクション分かれています。

 最初のセクション(先ほどのユーチューブの音源でいうと6分23秒まで)は冒頭のメロディ(以降Aと呼ぶ)ともう一つの激しいメロディ(以降B)が交互に少しずつ形を変えながら繰り返されています。Aが4回、Bが3回です。

 二つ目のセクションは9分50秒あたりまでの部分で、その中でさらに二つ部分に分かれており、それをC、Dと呼びます。二つ目の部分は、C→D→Cの構成になっています。

 三つ目のセクションは12分15秒あたりまでで、その中で二つに分かれています。(以降E,F)E→F→E

 その後、4つ目のセクションでAが一回あり、5つ目のセクションは調性音楽的なフレーズで曲が終わります(Gセクションとする)。

・Aの分析

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はい、これが冒頭のメロディです。

 バイオリン1はEbマイナー、バイオリン2はAマイナー、ビオラはAbマイナー、チェロはCマイナーといえるでしょう。調性はここだけでは、確定しない部分もあるのであまり重要ではありませんが、複調であるといえるでしょう。

 旋律的にはビオラがバイオリン1、チェロがバイオリン2に対応しています。 

 ビオラは、バイオリン1の旋律の音程関係を維持したままそのまま逆転させたような旋律を1拍分遅れてスタートしています。チェロも同様にバイオリン2の旋律を後追いしています。

 このように、四つの調のメロディーが混ざっている中で、短二度音程や増八度音程が多くみられ、この曲の独特な響きを作り出しています。

・Bの分析

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Decisoの意味は「はっきりと、明確に」という意味だそうです。

Bはバイオリン1と2がDとA、チェロとビオラC#とG#を奏していて、Aでも多用されていた増8度(正確には短9度ですが便宜上こう書きます)の響がここでも現れています。そしてその後Aのメロディが続き2回目のBは以下のようになっています。

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ここではバイオリン1がD#、A#を奏していて、バイオリン2にたいして、さらに増8度音程になっています。

そして3回目

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ここでは、チェロが2回目とは変化していて、ビオラの増8度下になっています。

つまり、チェロのC,Gに増8度音程で三つ堆積してあるということになります。

この後少しだけメロディのようなものがあるのですが、それもこの音程間隔を保ったまま続きます。

 

・Cの分析

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Cではバイオリン1と2は最初から最後までこのフレーズを繰り返します。

このフレーズはC#とEは共通しているのですが、バイオリン2のDとバイオリン1のD#が1オクターブと増8度の音程関係になっていて、不協和音になっています。

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 チェロとビオラのメロディはこんな感じで、ビオラにはG#ディミニッシュスケール、チェロにはF#ディミニッシュスケールが使われています。

・Dの分析

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feroceは「野性的に激しく」という意味です。

 Dセクションの前半部分では、バイオリン1、2がメロディを奏でていて、このメロディはDホールトーンスケールを使用しており、バイオリン2は1の長三度下をユニゾンで奏しています。ビオラはCセクションのバイオリン2と同じ和音を完全4度下げて演奏していますが、チェロに関しては関連性が薄く、強いて言うならばチェロとビオラがF7♭9を表現しているともいえます。

f:id:Nakagawa-music:20191002143423p:plain 後半部分ではチェロのEbがDに変わり、メロディーは三度のユニゾンでDマイナーの自然短音階になっています。そしてこのふたつの部分を何回か繰り返したのち、Cがまた現れます。

・Eの分析

 

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martellantoの意味は「 強くアクセントをつけ音を離して」、tempestosoは「嵐のように激しく」という意味です。

最初の赤で囲った和音は、バイオリン1,2が短二度、ビオラとチェロも短二度となっており、この曲によく出で来る響きとなっています。緑の和音は、Eb7b5/C#です。

次の水色で囲ってある和音はチェロとバイオリン1が増8度音程となっていて、バイオリン1と2がAメジャー、チェロとビオラがCマイナーのコードになっていて、複調的といえます。同様に、黄色で囲ってある和音は、上二つがDメジャー、下二つがGマイナーで複調になっています。

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 緑で囲った部分の和音は、調としてはDメジャーの音を使っているといっていいかもしれませんが、バイオリン1のDに対しビオラのC#が短二度、チェロのC#が増八度になっており、不協和音程になっています。

 次のオレンジの和音は、この曲には珍しいごく普通の和音でDメジャーです。

 そして、その後1かっこの黄色で囲ってある和音は、バイオリン1とビオラが同じ音で、バイオリン2の2音に対して、ぞれぞれ増八度になる音が配されています。また、チェロのGとビオラのG#も増八度になっています。

・Gの分析

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ここは、簡単に分析ができます。緑の部分は、F#メジャーとC#メジャーなので、トニックとドミナントでしょう。そして、オレンジの部分でBbメジャーに転調します。

最後に書いてあるlungaは「程よく伸ばす」pochissは「ほんの少し」という意味だそうです。

・まとめ、感想

 

 とにかくこの曲の特徴は増八度と短二度の響きで場面場面で雰囲気は変化しても、一貫してこの響きが用いられていたのは興味深かったです。いや~にしてもこの狂気的な響きは素晴らしいですね。Eの後半などでは調性にのっとっているように見えて、増八度や短二度が含まれていたり、様々な場面で多調が用いられていて、それがこの狂気的な響きを生んでいることがわかりました。

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